ピロリ菌の最新情報と除菌治療 ~北海道・札幌での感染率も含めて~
ピロリ菌の最新情報と除菌治療
~北海道・札幌での感染率も含めて~
はじめに
みなさん、「ピロリ菌」という名前は耳にしたことがありますよね。
正式には Helicobacter pylori(ヘリコバクター・ピロリ菌)と呼ばれる細菌で、胃の中に住みつくことができます。
この菌、胃がんや胃潰瘍・十二指腸潰瘍の大きな原因であり、日本では感染が見つかれば、保険診療で除菌治療を受けられます。
今回は、北海道・札幌での感染率や、保険診療での除菌方法、さらに除菌後に残るリスクと胃カメラ検査の重要性まで、最新情報をまとめてお伝えします。
1. ピロリ菌の感染率は下がってきている
かつて日本では、ピロリ菌に感染している人は非常に多く、1970年代生まれでは感染率が70%以上という報告もあります。
しかし現在、感染率は世代によって大きく低下しています。
2019年の全国推計では、成人全体の感染率は約18.8%。
衛生環境の改善や家庭内感染の減少により、若い世代ほど感染率は低い傾向。
モデル予測では、2018年時点で40歳の感染率は約22%、2030年には13%まで低下すると見込まれています。
北海道・札幌の状況
北海道内では全国平均よりやや感染率が高いとされ、特に50歳以上では2~3割以上の方が感染していると推定されます。
これは、道内の水道普及や衛生環境改善が本州より遅れた地域があったことも関係していると考えられています。
除菌治療の広がりと北海道の実績
2013年に「ピロリ菌感染胃炎」にも保険が適用されるようになったことで、除菌治療は一気に広がりました。
北海道では、2010~2016年のデータで約27,000人が除菌治療を受けています。
札幌市でも、市民健診や医療機関でのピロリ菌検査の機会が増え、早期発見・除菌が進んでいます。
保険診療での標準的な除菌治療
日本の保険診療では、7日間(1週間)の3剤併用療法が基本です。
カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)が2015年に登場してからは、それまでおよそ70%だった一次除菌での除菌成功率が90%まで改善しました。
除菌治療薬の投与期間を延ばしたり、4剤併用療法を行ったりすることは保険適用外になります。
一次除菌(1st line)
- ボノプラザン(酸分泌を強力に抑える薬)
- アモキシシリン(抗菌薬)
- クラリスロマイシン(抗菌薬)
※クラリスロマイシン耐性菌が多い地域では、成功率が下がります。
※クラリスロマイシンは併用する際に注意が必要な薬が多くあります。処方薬を受け取る際は医師および薬剤師に普段飲んでいる薬を知らせてください。
二次除菌(2nd line)
- ボノプラザン
- アモキシシリン
- メトロニダゾール
※一次除菌で失敗した場合に行われます。
※二次除菌中と治療後1週間は飲酒できません。
除菌に失敗したらどうする?
一次・二次除菌の両方で失敗した場合、保険診療では三次以降の治療薬を自由に選ぶことはできません。
このようなケースでは、耐性菌検査や適切な薬剤選択が可能な専門施設での治療が推奨されます。
札幌市内では、北海道大学病院「ピロリ菌専門外来」が代表的です。
ここでは、菌を培養して薬剤耐性を調べたり併用薬との相互作用を考慮したりして最も効果的な薬を選択します。
ペニシリン系の抗生物質でアレルギーや副作用が出るため、通常の除菌治療が受けられない方も対応されています。
保険診療での一次除菌、二次除菌が不成功だった場合も、こうした専門外来で適切な治療を受けられるのは大きな安心材料です。
除菌後の再感染
「除菌しても、また感染しないの?」と思われる方も多いですが、実際には成人での再感染はとても珍しいです。
日本国内での再感染率は年間0.2~0.5%程度と非常に低く、再感染はまれです。
再感染は主に小児期に多く、成人ではほとんど起きません。
除菌後に「再陽性」となった場合、実際には再感染ではなく、除菌が不完全で菌が残っていた(再燃)ケースもあります。
つまり、一度きちんと除菌に成功すれば、その後再び感染するリスクはごくわずかです。
除菌しても胃がんリスクはゼロにならない
除菌は胃がん予防に大きな効果がありますが、リスクを完全にゼロにはできません。
除菌によって胃がん発症リスクはおおよそ2分の1〜3分の1程度に減少します。
ただし、除菌前にすでに慢性胃炎や萎縮性胃炎が進行している場合は、その後も胃がんが発生する可能性があります。
特に萎縮が高度な場合や腸上皮化生がある場合は、除菌後も注意が必要です。
除菌後の胃カメラ検査の頻度
胃がんリスクはゼロにならないため、除菌後も定期的な胃カメラ検査が推奨されます。
頻度は胃の状態によって異なります。
萎縮性胃炎が軽度またはなし
→ 2年ごと、または症状があれば早めに
萎縮性胃炎が中等度以上、腸上皮化生あり
→ 1年に1回
胃がんの既往がある、または家族歴あり
→ 年1回(場合によっては半年~1年ごと)
当院でも、除菌後の胃の状態に応じて次回検査時期を個別にご案内しています。
除菌のメリットまとめ
メリット | |
胃がんリスク | 1/2に低下(ただしゼロではない) |
胃・十二指腸潰瘍 | 再発予防に有効 |
慢性胃炎 | 炎症の改善、胃の症状改善 |
社会的効果 | 胃がん発症抑制による医療費削減 |
まとめ
- ピロリ菌感染率は北海道・札幌でも減少傾向だが、中高年では依然として高い。
- 保険診療では1週間の3剤併用療法(一次:クラリスロマイシン、二次:メトロニダゾール)が基本。
- 二次除菌まで失敗した場合は、北海道大学病院「ピロリ菌外来」で耐性検査と適切な薬剤選択が可能。
- 除菌後の再感染率は非常に低いが、胃がんリスクはゼロにならない。
- 萎縮性胃炎が残っている場合、1年ごとの胃カメラ検査が推奨される。
院長からひとこと
「除菌したから安心」と思って検査をやめてしまう方がいますが、それはちょっと危険です。
除菌は“リスクを減らす手段”であって、“完全に防ぐ魔法”ではありません。
だからこそ、除菌後も定期的に胃カメラでチェックしていただきたいのです。
特に北海道・札幌は胃がんの発症率が全国的に見ても高めの地域。
これを読んで「自分も調べてみようかな」と思った方は、ぜひお気軽にご相談ください。
消化器病専門医・消化器内視鏡専門医
肝臓専門医・総合内科専門医
本城信吾 院長
南北線南平岸駅から徒歩6分、リードタウン平岸ベースにある消化器内科
ほんじょう内科
北海道札幌市豊平区平岸1条12丁目1番30号 メディカルスクエア南平岸2F
TEL:011-595-8261