JDDW2023神戸・内視鏡AIとMASLD
JDDW2023
JDDW2023(消化器病関連学会週間2023)に参加してきました。3年ぶりの学会現地参加です。
今回の学会参加は2つの目的があります。一つはほんじょう内科でも数年以内の導入を考えている内視鏡AI診断についての情報収集、もう一つは非アルコール性脂肪肝(NAFLD)という病名が長年使われてきた「メタボの脂肪肝」の改名についてエキスパートの先生たちの認識を確認することです。
内視鏡AI診断
内視鏡AI診断システムをリリースしている3社の機器展示ブースを訪れて、AIの診断体験をさせていただきました。
胃カメラAI?大腸カメラAI?
対応する内視鏡領域について1社は胃カメラのみ、1社は大腸カメラのみ、1社は胃カメラと大腸カメラの両方とのことでした。胃カメラのみまたは大腸カメラのみ対応している2社も今後胃カメラ・大腸カメラの両方に対応する準備中とのことでした。
見つける?見分ける?
内視鏡の診断には、①病変を見つける、②みつけた病変がどんなものかを見分ける、という2段階の診断過程があります。
見つけるAI診断には病変の発見をリアルタイムで支援するものと静止画の中から病変を探し出すものの2種類ががあるようでした。
また、見分けるAI診断については胃の病変が癌か癌以外を見分けるものや、大腸ポリープが腫瘍性か非腫瘍性かを見分けポリープ切除の要否判断を助けてくれるものがありました。
まだまだこれから発展が期待できる領域で各社とも今後の展開が楽しみな状況でした。
内視鏡に限らず検査や診断にはいくら注意していてもヒューマンエラーをゼロにはできない事実があります。機械やテクノロジーの力を借りてでも検査診断のミスを少なくしていきたいと考えています。
NAFLDからMASLD
メタボの脂肪肝の名前が変わります。
以前から長く使われてきたNAFLD(非アルコール性脂肪肝)という病名があります。お酒をほとんど飲まないのに、毎日多くのアルコール飲料を飲む方がなるアルコール性脂肪肝と同じような組織の変化がおこる病気のことです。そのほとんどが肥満や運動不足によって引き起こされるメタボリックシンドロームに関連した脂肪肝でした。ところが、この病名には困ったことが2つあって、一つはメタボもあるけどお酒もよく飲む方の脂肪肝にはしっくりこないことです。そしてもう一つは原因がアルコールでもメタボでもない脂肪肝の方がメタボの脂肪肝と一緒の扱いにされることです。
そこで、2000年にメタボの脂肪肝はMAFLD(metabolic associated fatty liver disease)としようと提案がありました。この病名だとメタボもあるけどお酒もよく飲む方の脂肪肝もしっくりいきます。でも、お酒を飲まないメタボとお酒をしばしば飲むメタボは同じに扱っても良いのでしょうか?そこで2023年に欧州肝臓学会と米国肝臓学会、ラテンアメリカ肝疾患研究会が合同で病名変更を発表しました。日本肝臓学会でも脂肪性肝疾患(Steatotic Liver Disorder)をその原因によって次のように分けていこうとなったようです。
MASLD metabolic associated SLD
お酒はほとんど飲まないメタボリック症候群が原因の脂肪肝
Met ALD
お酒をしばしば飲むしメタボもある方の脂肪肝
ALD alcoholic liber disease
とてもたくさんお酒を飲む方のアルコールが主な原因となっている肝臓病
Specific aetiology SLD
薬やWilson病などメタボやアルコール以外の特別な原因によって起こる脂肪肝
Cryptogenic SLD
原因がわからない脂肪肝
MASLDは日本語で何て?
現時点では日本語でどう表現して患者さんに説明するかは決まっていないようなので、当面はMASLDのことは「メタボの脂肪肝」と、Met ALDは「メタボとアルコールの脂肪肝」と患者さんに説明するつもりです。
少しの肥満でも病気になる日本人
国立国際医療研究センター・グローバルヘルス政策研究センターの磯博康先生の特別公演によると、私たち日本人の肥満率は世界的に見るととても低いですが、近年中年以降の男性の肥満が増加しています。日本人を含めたアジア人は欧米人に比べると少しの肥満でも脂肪肝や糖尿病ひいては脳血管疾患を発症してしまう傾向にあります。メタボリックシンドロームの入り口に位置するMASLDの管理は今後の日本人にとって重要な課題になりそうです。私たちが健康食としての日本食の良さを見直して世界に発信していけるといいですね。
パネルディスカッション「NAFLD or MASLD-予後改善に向けて」
JDDW2023では、「NAFLD or MASLD-予後改善に向けて」というタイトルでパネルディスカッションが催され、基礎研究から疫学調査、臨床研究の報告がされました。
久留米大学消化器内科の堤翼先生は「MASLDの予後と病理学的所見の関連:全国他施設共同研究」をご発表され、MASLDが代謝異常のないSLDより予後が悪いことと肝生検組織では線維化より炎症が予後への影響が大きいことを報告されていました。
また、岡山市立病院消化器内科の狩山和也先生は「新規肝線維化予測スコアFIB-3 indexを用いた日ウイルス性HCC危険群同定」をご発表されました。従来から広く使われているFIB-4 index はHCCの危険群予測には有用な反面、年齢によってカットオフ値を使い分ける煩雑があります。新しいスコアのFIB-3 indexを用いると一つのカットオフ値で年齢にかかわらずHCC危険群の囲い込みができることを報告されており、私たちのクリニックの診療でも明日から使えそうです。
札幌市豊平区の胃腸科・消化器内科クリニック
ほんじょう内科
院長 本城信吾