下痢
下痢とは?
口から食べた食物は食道、胃、小腸を通っておよそ半日で大腸にたどり着きます。大腸では水分が吸収され、程よい硬さの便となります。しかし、何らかの原因で分泌される腸液が増えたり水分の吸収が悪くなったりすると水分の多い便、つまり「下痢便」となってしまいます。
下痢便は水のように緩い「水様便」、泥状の「泥状便」、透明なゼリー状の物質が混じる「粘液便」、いちごゼリー状の「粘血便」などがあります。血液が混じった下痢便が出た場合はスマホで写真を撮ってから医療機関を受診すると、医師や看護師に状況が伝わりやすいです。
その下痢、いつからですか?
下痢が続いている期間が2週間以内のものを急性下痢と呼びます。一方、4週間以上の経過の場合を慢性下痢と呼びます。良くなったり悪くなったりを繰り返しながら長く続いている場合も慢性下痢です。
急性下痢と慢性下痢では主な原因や対処法が異なります。急性下痢の場合は脱水にならないようにすることが最も重要です。スポーツドリンクや経口補水液で積極的に水分補給をしてください。脱水になりやすい高齢者や授乳婦の方は早めに消化器内科を受診して点滴を受けることをおすすめします。
慢性下痢の場合は、症状が軽くても深刻な病気が隠れていることがあるため、大腸カメラ検査を受けることができる消化器内科を受診したほうがいいでしょう。
急性下痢の原因
感染性下痢
ウイルス性腸炎
「おなかの風邪」「はきくだし」と言われています。ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなどが主な原因ウイルスです。嘔吐、腹痛で始まり、続いて水の様な下痢がおこります。ごく微量のウイルスでも感染が広がるため、食品を介さずに吐物や便で汚染された手からドアノブなどを介して感染します。このため家庭内でひろがりやすいのが特徴です。
多くの場合1~2日の潜伏期間の後に発症し、3日から1週間の経過で回復します。ウイルス性腸炎に特別な薬はなく、水分補給と症状を和らげるお薬が主な治療となります。
家庭内で感染を広げないためにはドアノブやトイレの水洗スイッチなどの消毒が必要です。アルコールでノロウイルスは死滅しないため消毒には次亜塩素酸ナトリウムを用います。家庭で使う塩素系漂白剤(キッチンハイター®など)を次表のとおり希釈して使ってください。
使用する場所・物 |
消毒液の濃度 |
作り方 |
---|---|---|
ドアノブ,手すり |
200ppm |
家庭用塩素系漂白剤10ml 水2.5 ℓ |
嘔吐物,便が |
1,000ppm |
家庭用塩素系漂白剤10ml 水0.5 ℓ |
下痢がおさまってからも数日の間便にウイルスが排出し続けることがあるため、下痢が治まってから48時間は登校や出勤を控えていただくのが一般的です。
細菌性腸炎
病原性大腸菌、カンピロバクター、サルモネラなどが主な病原菌です。発熱や強い腹痛を伴い、粘液便や血便を伴うこともあります。強い便意の割には、下痢便の量が少ないこともあります。
原因となる食品は主に生野菜や加熱不十分な肉、魚ですが、必ずしも原因となった食品を特定できるわけではありません。保菌しているペットから感染することがあります。ウイルス性腸炎と比べヒトからヒトへの感染は少ないです。
病原菌 |
主な感染経路 |
潜伏期間 |
---|---|---|
サルモネラ |
生卵 牛肉 鶏肉 爬虫類のペット |
12~36時間 |
カンピロバクター |
加熱不十分な鶏肉 牛レバー |
1~7日 |
腸管病原性大腸菌 |
生野菜、生水 東南アジア、アフリカ滞在 |
12~24時間 |
病原毒素原性大腸菌 |
東南アジア、アフリカ滞在 |
12~72時間 |
腸管出血性大腸菌 |
牛肉 生野菜 |
3~5日 |
腸炎ビブリオ |
生の魚介 |
8~12時間 |
非感染性下痢
飲み物・食べ物
- アルコール、
- キシリトールなどの人工甘味料
- 牛乳・乳製品
薬剤による下痢
下痢を引き起こす可能性のある主な薬は次の通りです。原因となっている薬の服用を中止すると数日から1週間程度で下痢が治まります。
薬の種類 |
治療する病気 |
代表的な薬品名 |
---|---|---|
緩下剤 |
便秘 |
アローゼン® センノシド® ラキソベロン® マグミット® |
消炎鎮痛剤 |
腰痛 関節痛 |
ロキソニン® セレコックス® ボルタレン® |
抗菌薬 |
細菌感染症 |
クラビット® メイアクト® オーグメンチン® クラリシッド® |
抗がん剤 |
がん |
ティーエスワン® カンプト® ラステット® |
胃酸分泌抑制薬 |
逆流性食道炎 胃潰瘍 ピロリ菌感染 |
タケプロン® オメプラール® パリエット® タケキャブ® |
漢方薬 |
便秘 冷え性 更年期障害 など |
大黄甘草湯 桂枝加芍薬大黄湯 潤腸湯 桃核承気湯 防風通聖散 |
降圧薬 |
高血圧 |
オルメテック® |
慢性下痢の原因
炎症性腸疾患
潰瘍性大腸炎
2か月以上続く下痢、血便が主な症状の原因不明の大腸の炎症です。
クローン病
10~20歳台に発症することが多いです。腹痛、下痢が長く続きます
好酸球性腸炎
食べ物に対するアレルギー反応が起こり、好酸球という白血球のひとつが胃腸の粘膜に多く集まって慢性的な炎症を起こします。腹痛、おう吐、下痢などが主な症状です。小麦、牛乳、大豆、ナッツ、卵、海産物が原因になることが多いです。原因となる食品が判明できれば、これを除くことで良くなります。原因を同定できない場合は副腎皮質ステロイド剤というアレルギー反応を抑える薬を長期に服用します。
胃カメラや大腸カメラを行い、粘膜の複数箇所を生検することで診断します。
薬剤による慢性下痢
薬剤性下痢は急性発症することが多いですが、高血圧や逆流性食道炎のため長い期間薬を服用している場合には慢性下痢の原因になります。
バセドウ病
バセドウ病は甲状腺ホルモンが過剰に産生される病気です。下痢のほかに体重の減少、動悸、暑がり、疲れやすさ、手の震え、イライラなどの症状が現れます。眼球突出や甲状腺腫がみられる場合があります。採血検査で甲状腺ホルモンの過剰が認められます。採血検査での肝機能障害が診断のきっかけになる場合があります。バセドウ病の治療にはホルモンの産生を抑える飲み薬の治療を行います。薬の治療が聞きにくい場合や薬の副作用がでた場合はアイソトープ治療や手術を行います。
大腸がん
大腸がんでの便通異常は便秘のことが多いです。しかし、慢性の下痢や便秘と下痢を交互に繰り返す方の中に、大腸がんが潜んでいる場合があります。粘液便や血便がでる際には特に注意が必要です。長期に便通異常が続いているかたは大腸カメラを受けることをお勧めします。
過敏性腸症候群
腹痛や便秘・下痢が数か月以上にわたって続く病気です。自律神経の乱れや精神的なストレスによって症状が悪化することがあります。
下痢の治療
水分補給
水分補給は急性下痢の最も大切な治療のひとつです。口から飲むことができる場合は、室温にぬるくしたスポーツドリンクや経口補水液を少しずつ時間をかけて飲んでください。腹痛や嘔吐のために口から十分に水分補給ができない場合には、医療機関を受診して点滴を受けましょう。
薬物治療
腸内細菌を整える整腸剤を服用します。ミヤBM®、ビオフェルミン®、ラックビー®などが使われます。
強い腹痛を伴う場合にはチアトン®、ブスコパン®など、腸の強い収縮を抑える薬を服用することがあります。
細菌性腸炎が重篤な場合や遷延する場合には抗菌薬を3~5日間服用することがあります。
自己判断で薬を飲むと、かえって良くない経過となる場合があります。消化器内科専門医に相談するのがベストです。
危険な下痢
次のような特徴のある下痢は、重篤な病気のサインである可能性があります。一つでも当てはまるものがあれば、消化器内科を受診して、採血検査、便検査や大腸カメラ検査を受けるようにしましょう。
- 下痢便に血が混じる
- 下痢と便秘を交互に繰り返す
- 2か月以上下痢が続いている
- 体重が減ってきた
- 強い腹痛、発熱を伴う
消化器病専門医・消化器内視鏡専門医
肝臓専門医・総合内科専門医
本城信吾 院長
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ほんじょう内科
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