ヘリコバクターピロリ菌
ピロリ菌とは
ピロリ菌は幼少期に口から感染
免疫システムが未熟な10歳未満のお子さんが、ピロリ菌のついた食べ物を口にすることで感染します。その後ピロリ菌は何十年も胃の中に居座り続けます。強い胃酸のなかでも生き続けられるのには理由があります。それはピロリ菌が作るウレアーゼという酵素の働きによります。ウレアーゼは胃粘膜で尿素と水から炭酸ガスとアンモニアを生成します。アルカリ性のアンモニアは胃の強い酸を中和するので、ピロリ菌は胃の中でも生き続けることができます。
胃カメラでピロリ菌がいることがわかりますか?
幼少期に体の中に入ったピロリ菌は、未熟な免疫システムでは排除されず胃の中に居続けます。そして、慢性胃炎を引き起こします。ピロリ菌による慢性胃炎を胃カメラで見ると、胃粘膜の赤いむくみや黄色い斑点が観察されます。胃カメラ検査で慢性胃炎の所見を見つけたらピロリ菌の有無を確認する検査を行います。当院では主に胃粘膜を少量採取して、顕微鏡でピロリ菌の姿を探す「ピロリ菌鏡検」とピロリ菌が持つウレアーゼという酵素の有無を調べる「迅速ウレアーゼ試験」を行っています。
ピロリ菌が引き起こす病気
胃潰瘍の80%、十二指腸潰瘍の90%でピロリ菌が原因の一つとなっています。胃潰瘍・十二指腸潰瘍は薬で治せます。しかし、ピロリ菌が胃の中に残ったままの状態で薬をやめると、胃潰瘍・十二指腸潰瘍が再発してしまいます。
このほか、鉄欠乏性貧血と免疫性血小板減少性紫斑病、胃リンパ腫が、ピロリ菌の感染によって引き起こされることが知られています。
ピロリ菌と胃癌
胃がんの9割以上はピロリ菌の感染が原因で発生します。欧米に比べ日本で胃癌患者さんがとても多いのは、日本でピロリ菌の感染率がずっと高いからです。ピロリ菌の除菌治療を受けていただくと、ほとんどの方でピロリ菌を除去できます。ピロリ菌がいなくなると胃癌の発生率はおよそ1/3に減少します。より若いうちに除菌したほうが胃がんの予防効果が高いと言われています。
除菌治療
ピロリ菌の除菌では、2種類の抗菌薬と1種類の胃酸を抑える薬を7日間自宅で服用します。ペニシリン系の抗生物質にアレルギーがある方は治療を受けることができません。 また、除菌治療薬には一緒に飲むことができない薬、一緒に飲むときに注意が必要な薬があります。次に示すお薬を飲んでいる方はあらかじめご相談ください。
除菌治療薬と一緒に飲むことができない薬
- クリアミン®(エルゴタミン)片頭痛の薬
- ベルソムラ®(スボレキサント)睡眠薬
- オーラップ®(ピモジド)統合失調症、自閉症の薬
- アドシルカ®(タダラフィル)肺高血圧症の薬
- ジメンシー®、スンベプラ®(アスナプレビル)C型肝炎ウイルスの薬
- バニヘップ®(バニプレビル)C型肝炎ウイルスの薬
- ジャクスタピッド®(ノミタピドメシル)コレステロール値を下げる薬
- ブリリンタ®(チカグレロル)心臓病の薬
- イムブルビカ®(イブルチニブ)白血病治療薬
除菌治療薬と一緒に飲むときに注意が必要な薬
- ワルファリン®(ワーファリン)血液を固まりにくくする薬
- ジゴキシン 心臓の薬
- テグレトール®、ユニフィル®(カルバマゼピン)けいれんの薬
- アダラート®(ニフェジピン)血圧の薬
- テオドール®(テオフィリン)喘息の薬
- リピトール®(アトルバスタチン)コレステロール値を下げる薬
- リポバス®(シンバスタチン)コレステロール値を下げる薬
- オイグルコン®(グリベンクラミド)血糖を下げる薬
- ハルシオン®(トリアゾラム)睡眠薬
- レルパックス®(エレトリプタン)片頭痛の薬
- ワソラン®(ベラパミル)脈をコントロールする薬
- イトリゾール®(イトラコナゾール)水虫などの真菌治療薬
- リファジン®(リファンピシン)結核の薬
除菌治療薬の副作用
「口の中が苦く、味がわかりにくい」「味がしないので、何を食べてもおいしくない」といった味覚障害が現れることがあります。また、便が柔らかくなったり下痢になったりすることがあります。症状が軽い場合は薬をやめずに7日間飲み切ってください。
ただし、強い腹痛や血便が出た場合や、皮膚に発疹が出てきた場合はお薬を飲むのを止めて、医療機関に連絡してください。
除菌治療の効果判定
7日間の除菌治療によっておよそ95%の方のピロリ菌が完全に排除されます。治療の結果ピロリ菌を排除できたかどうか調べるため、除菌治療のおよそ2か月後に「尿素呼気試験」という検査を行います。尿素呼気試験は5ステップの苦痛のない検査です。
- 息を吹き込む
- 薬を飲む
- 左側臥位を保つ
- 座位を保つ
- 息を吹き込む
尿素呼気試験はおよそ20分で終わります。尿素呼気試験の前の6時間は食事を摂らないでください。お水、お茶は検査前まで飲んでもかまいません。
検査の結果ピロリ菌が残っていれば、お薬の内容を変更した2回目の除菌治療(二次除菌)を相談することができます。
ピロリ菌の検査に影響する薬
ピロリ菌の検査は薬の影響を受けて、正しい結果が出ないことがあります。以下の薬は尿素呼気試験を受ける2週間前から中止します。
胃酸を抑える薬
- タケキャブ®(ボノプラザン)
- タケプロン®(ランソプラゾール)
- パリエット®(ラベプラゾール)
- オメプラール®(オメプラール)
- ネキシウム®(エソメプラゾール)
胃粘膜を保護する薬
- アルサルミン®(スクラルファート)
- ガストローム®(エカベト)
抗菌薬
- サワシリン®、アモリン®(アモキシシリン)
- クラリス®(クラリスロマイシン)
- クラビット®(レボフロキサシン) など
下痢止め薬
- 次硝酸ビスマス
除菌が成功した後
除菌が成功したら、どうなりますか?
ピロリ菌がいなくなると、慢性胃炎が治り、胃粘膜の状態が整ってきます。そして、しっかり胃酸が分泌され食べ物が消化されやすくなります。「除菌前までは、なんとなく食欲がなく沢山食べられなかったけど、美味しく食べられるようになった。」と感じる方がいます。 また、ピロリ菌の除菌に成功すると逆流性食道炎が起きやすくなります。これは、ピロリ菌が居なくなって胃酸がしっかり出るようになると、逆流する量が少なくても食道への刺激が強くなるためです。「ピロリ菌を除菌したら、胸焼けすることが多くなった」と感じる方もいるようです。
除菌成功した後も胃カメラ検診を受けたほうがいいですか?
ピロリ菌を除菌した後は1年毎の胃カメラ検査が推奨されています。その理由は三つあります。
第一に、除菌後の胃癌を見つけるためです。ピロリ菌の除菌が成功すると胃癌発症リスクは約半分に減りますが、それでもピロリ菌に感染したことがない方に比べるとずっと胃癌にかかりやすいです。
第二に、ピロリ菌の除菌後に発生する胃癌は早期に見つけるのが難しいからです。バリウム検査に比べて、早期の小さい癌を見つけやすい胃カメラでの検診が望ましいです。
最後に、除菌してもピロリ菌が残っていたり、再びピロリ菌に感染したりすることがあるからです。除菌判定に用いる尿素呼気試験はとても正確ですが、まれに偽陰性(あやまってピロリ菌が残っているのに陰性の判定がでること)があります。除菌治療が成功すると慢性胃炎が治るので、その1年後に胃カメラで観察すると胃粘膜の赤いむくみといった慢性胃炎の所見がなくなっていることを確認できます。しかし、ピロリ菌が残っていたり再び感染していたりすると慢性胃炎の所見が残っています。
ピロリ菌の発見でノーベル賞!
オーストリアの病理医(顕微鏡検査のスペシャリスト)ウォーレン先生(左)と消化器医のマーシャル先生(右)が、胃炎患者さんの胃粘膜にらせん形の小さい菌がいることを発見し1979年に発表しました。そして1982年に、この菌を培養することに成功しました。マーシャル先生は、培養した菌を自分で飲み込んでみて、胃炎が起こることを確かめたそうです。
さらに詳しくお知りになりたい方は、日本消化器病学会・「ヘリコバクターピロリ感染胃炎」に対する除菌治療に関するQ&Aをご覧ください。
消化器病専門医・消化器内視鏡専門医
肝臓専門医・総合内科専門医
本城信吾 院長
南北線南平岸駅から徒歩6分、リードタウン平岸ベースにある消化器内科
ほんじょう内科
北海道札幌市豊平区平岸1条12丁目1番30号 メディカルスクエア南平岸2F
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