2023年9月の胃カメラ・大腸カメラ~逆流性食道炎の薬ずっと飲んでいて大丈夫?
消化器内視鏡
9月のほんじょう内科の内視鏡実績は、胃カメラが96件、大腸カメラが43件でした。
胃カメラでの主な診断は逆流性食道炎、単純ヘルペス食道炎、食道潰瘍、ヘリコバクターピロリ胃炎、胃底腺ポリープ、胃アニサキス症、胃粘膜下腫瘍でした。
大腸カメラでの主な診断は、大腸がん、大腸ポリープ、大腸憩室、虚血性腸炎、潰瘍性大腸炎(全大腸炎型)でした。
逆流性食道炎の薬は飲み続ける?ずっと飲んでいて大丈夫?
日本人では、ピロリ菌の感染率が低下しているのと相反して逆流性食道炎の患者さんは増加傾向にあります。逆流性食道炎は胃酸が食道に逆流して食道粘膜を障害するため胸やけ、呑酸などの症状をひきおこす機能性疾患です。内視鏡所見が軽度の場合は無症状のこともあります。重度の逆流性食道炎の場合は不快な症状に毎日悩まされることもあり、生活の質を下げる原因となります。
PPIやPCAB(ボノプラザン)は、胃酸を抑える効果が強いためH2ブロッカーでは効果が不十分だった逆流性食道炎の症状を改善できることがあり、本邦でも多く使用されています。これらの薬は比較的安全性が高いと考えられていましたが、2015年ころから長期服用でいくつかの懸念点があることが報告されるようになっています。2023年1月の日本内科学会雑誌には「PPIの功罪(PCABを含む)」というタイトルで特集が組まれ、私たち消化器内科、胃腸科の専門医の中で大きな話題の一つとなっています。
PPIやPCABの長期服用のリスク
細菌性胃腸炎
相対危険度は2~6倍。胃酸は食品に混入した病原微生物を殺菌する作用があります。胃酸が抑えられると殺菌効果が弱まり、その結果細菌性胃腸炎が増加します。特に Clostridiodes difficile 腸炎ついては大規模症例対照研究が行われ、発症リスクを高めることが報告されています。
胃カルチノイド腫瘍
ガストリンは胃酸の分泌を促進する消化管ホルモンです。PPIやPCABを服用して胃酸が弱まると、これを検知した胃前庭部のG細胞から多量のガストリンが分泌されます。ガストリンはECL細胞の増殖を刺激する作用も持つので、ECL細胞由来の腫瘍であるカルチノイド腫瘍を増やす可能性があるとされています。
骨粗しょう症
相対危険度は4倍未満。カルシウムは胃酸が減ると吸収されにくくなります。このためPPIやPCABを長期に服用した場合では骨粗しょう症や骨折の懸念があるとされています。このことについて複数の研究報告がありますが、リスクがありとするものもあればリスクなしとするものもあり一定の見解が得られていません。
認知症
相対危険度4~80%。PPIはアセチルコリンの抑制やビタミンB12吸収抑制を通して認知症の発症を増加させる可能性が指摘されています。
貧血
鉄の吸収には胃酸が必要です。胃酸を抑えるPPIやPCABを長期に服用していると、慢性的な鉄吸収の不足により鉄欠乏性貧血が引き起こされる懸念があります。
胃癌
PPIの服用が胃癌にリスクとなるという大規模コホート研究が香港やスウェーデンから報告されています。胃癌のリスクについてはこれからも長期の観察が必要とされていますが、ピロリ菌感染や胃炎といった胃癌のリスクのある方では注意が必要と思われます。
まとめ
PPIやボノプラザンは、逆流性食道炎の症状に悩まされている方にとってはとても良い薬です。一方、長期服用における有害な作用についてはまだ結論がはっきりしない部分もあり注意が必要と思われます。
どんな薬も有用性と副作用リスクがあります。患者さんそれぞれに合ったお薬を処方できるよう注意していきたいものです。
南平岸の胃腸科・胃カメラ・大腸内視鏡
ほんじょう内科
院長 本城信吾