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潰瘍性大腸炎の新薬~S1P受容体調節剤・オザニモド

[2025.06.01]

 

潰瘍性大腸炎に対する新しい治療薬が登場しました。

これまでの薬とは違うメカニズムで炎症を抑える「スフィンゴシン1-リン酸受容体調節剤(S1P受容体調節剤)」が日本でも発売となりました。これまで私たち消化器内科医には馴染みのなかった「S1P受容体」と新薬オザニモド(ゼポジア®)について知識を深めてみましょう。

 

オザニモド

https://www.zeposia.bmshealthcare.jp より転載

 

S1Pって何だ?!

「S1P(エスワンピー)」なんだか難しそうで逃げたくなりますね。でも大丈夫!一緒に見ていきましょう。

私たちの体を構成する細胞の内側と外側を隔てる生体膜を細胞膜と言います。細胞膜を構成する要素の一つにスフィンゴ脂質があります。スフィンゴ脂質は細胞膜をしなやかに保つだけではなく細胞の増殖や成熟に重要な役割を持っています。また神経伝達や免疫細胞の活性化に必要な要素でもあります。

S1Pはスフィンゴ脂質の代謝産物のひとつです。S1Pは細胞の内と外とで異なる役割を持っています。細胞内でS1Pは、細胞の運動、増殖、細胞死(アポトーシス)などの細胞機能を調節しています。細胞外のS1Pは脂質メディエーターとして、細胞の運動、増殖、血管新生など様々な細胞応答をコントロールしています。特に免疫担当細胞のひとつである「リンパ球」が体の中を動き回るための交通整理をする役割を果たしています。

「リンパ球」は体に侵入してきた細菌やウイルスを攻撃したり、がん細胞を抑えたりする大切な働きをしています。このリンパ球は、普段はリンパ節という場所に集まっていますが、必要な時には血液に乗って体のいろんな場所に駆けつけます。

ここで登場するのが「S1P」です。S1Pは、リンパ節からリンパ球が出て全身に出て行くのを促す役割をしています。S1Pはリンパ球に「さあ出番です、リンパ節からでて存分にお働きください!」と言って、リンパ球を血液の中に送り出すイメージです。

 

S1Pを邪魔するオザニモド

このS1Pの働きを部分的に邪魔するお薬が、新しく発売になったS1P受容体調節薬オザニモド(ゼポジア®)です。

この薬を飲むと、リンパ節にいるリンパ球は、S1Pの「リンパ節から出て働いてください」というサインを受け取りにくくなります。すると、リンパ球はリンパ節に留まり血液の流れに乗って全身をめぐることができなくなります。

潰瘍性大腸炎とリンパ球

潰瘍性大腸炎は大腸粘膜の炎症が長く続き下痢や腹痛、血便が長く続く病気です。この病気の患者さんでは大腸粘膜に炎症を引き起こす様々な細胞が集まっており、特にリンパ球が炎症の部分に多く集まっていることが知られています。

 

オザニモドの効果

オザニモドはリンパ球をリンパ節内にとどめて、間違って自分の体を攻撃してしまうリンパ球が大腸粘膜へ行くのを減らすことができます。その結果、大腸粘膜に集まるリンパ球が少なくなり炎症を鎮める薬です。

この薬は、潰瘍性大腸炎で腹痛や下痢、血便の症状を和らげる「寛解導入」と症状が収まり安定した状態をたもつ「寛解維持」の両方に効果があると期待されています。

既存の薬とは作用機序が異なるため、これまでの治療で炎症を完全に鎮めることができていなかった患者さんでも治療効果が期待できます。

 

オザニモドはどんな患者さんに使うの?

潰瘍性大腸炎の基本治療薬である5-ASA製剤やステロイド剤を使用しても十分な効果が得られない方に限定して使用することができます。

6カ月以内に心筋梗塞や狭心症や脳卒中を発症した方、心不全で入院治療を受けた方は服用できません。

洞不全症候群、房室ブロックと診断された方(ペースメーカー植え込み術を受けた方を除く)は服用できません。

治療を受けていない重度の睡眠時無呼吸症、重度の肝硬変、妊娠している方には服用できません。

 

服用を始める前の検査

採血は服薬開始前だけでなく服薬開始後も定期的に行います。

服薬開始前に心電図検査で不整脈のチェックを受けます。

眼の病気にかかったことがある方や糖尿病をお持ちの方では眼科検査が必要です。

 

細菌やウイルスに弱くならない?

オザニモドの作用機序を知ると「え?それってバイキンと戦えなくなっちゃうの?」って思うかもしれませんね。

オザニモドの優れた点は、患者さんの免疫の働きを完全に止めてしまうわけではないところです。体の外から侵入してきた病原体と戦うリンパ球は、ちゃんと血液中に出て行くことができると考えられています。したがって、感染症に対する防御力を弱めることなく、自分の体を誤って攻撃してしまうリンパ球の働きを抑えることができると考えられています。

 

まとめ

  • S1P は、リンパ節からリンパ球を血液中に送り出すサインです。
  • オザニモド(ゼポジア®) は、S1Pの働きを少し邪魔して、リンパ球がリンパ節にとどまるようにするお薬です。
  • オザニモド(ゼポジア®) は、大腸粘膜を間違って攻撃してしまうリンパ球の動きを抑えて潰瘍性大腸炎を治療する全く新しい薬で、今までの薬では症状が抑えきれていなかった患者さんにも効果が期待されています。
  • S1Pの働きにはまだはっきりとわかっていないこともあるため、専門医とよく相談して処方を受けてください。
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