冬に増えるノロウイルス
冬に増えるノロウイルス
~感染予防と初期対応を臨床現場から考える~
1. 冬の定番ウイルス「ノロウイルス」とは
ノロウイルスの感染は一年を通して認められますが、主に冬季に流行する急性胃腸炎の原因です。感染力が非常に強く、わずか10~100個程度のウイルス粒子で感染が成立して、発症するといわれています。おおよその潜伏期間は12〜48時間で、主な症状は嘔吐・下痢・腹痛で発熱や頭痛を伴うこともあります。多くは1〜3日で軽快しますが、まれに1週程度症状が長引く場合があります。また、乳幼児や高齢者では重症化することもあります。
感染のピークは毎年11月~翌年3月ごろで、気温が低く乾燥する季節に患者が急増します。
2. 過去の集団感染からみる「さまざまな感染経路」
ノロウイルスの感染経路は大きく分けて3つです。
| 感染経路 | 具体例 |
| 経口感染 | 汚染された食材(カキなどの二枚貝)を生や加熱不十分で摂取 |
| 接触感染 | 嘔吐物・便・汚染した手指や環境から口に入る |
| 飛沫感染 | 嘔吐時の飛沫、乾燥したウイルス粒子を吸い込む |
過去の集団感染事例に見るパターン
ⅰ. 学校・保育園・福祉施設での集団発症
→嘔吐物処理時の消毒不足、トイレ清掃後のウイルス拡散が多い。
ⅱ. 飲食店での集団発症
→調理従事者が感染しており、手洗い不十分な状態で調理・盛り付け時の手指から食品に拡散。
→牡蠣などの二枚貝の生食、不完全な加熱調理
ⅲ. 宴会・会食後に数日おいて発症者が相次ぐ
→臨床現場で多いケース。提供された食品だけでなくアルコールを提供する飲食店のトイレが感染源になることがある。
→飲酒により手洗いが不十分になりやすく、嘔吐物や便が適切にが処理されないことも多いため。トイレ内のドアノブ・蛇口・床などから二次感染が起こりやすい。
ⅳ. 床から舞い上がるウイルス
→吐物の不十分な処理後に乾燥すると、人が通るたびにウイルスが舞い上がり感染を引き起こす。吐物によるカーペットの汚染は要注意。この感染経路は塵埃感染(じんあいかんせん)と言う。
3. 発症は数日たってから
患者さんは問診の際に発症直前の食事についてお話しされることが多いですが、良く話を聞くと「2〜3日前に忘年会がありました」「数日前に家族が嘔吐や下痢していました」というエピソードを聞くことは珍しくありません。
ノロウイルス感染は人から人へ感染が広がることも多いです。家庭で感染し職場に持ち込むケースや、その逆に職場で患者さんとの接触で感染し家庭に広がることもあります。
ノロウイルスはアルコールでは完全に不活化できず、乾燥にも強いため屋内の環境中では数日〜1週間生存します。
「トイレ」や「ドアノブ」などが感染拡大の温床になります。
4. 感染予防の基本
手洗いは“石けん+流水20秒”が基本
アルコール消毒では不十分。食事前、トイレ後、嘔吐物処理後は必ず石けんと流水でしっかり洗う。
調理・配膳時の注意
- 手袋やマスクを着用
- 嘔吐・下痢症状がある場合は調理に従事しない
- 生ガキなどの二枚貝は中心温度85〜90℃で90秒以上加熱
5. 家庭・医療現場での嘔吐物処理の正しい手順
ノロウイルスは、「わずかなウイルス量でも感染が成立」するため、嘔吐物や便の処理には細心の注意が必要です。処理を誤ると、周囲への二次感染を一気に拡大させます。ここでは臨床現場でもそのまま応用できる標準的な手順を示します。
嘔吐物処理の基本手順
1. 防護具の着用
手袋、マスク、エプロン、準備があればフェイスシールドも着用。
(嘔吐時にはエアロゾル化するため、目の防護も必須。)
2. 嘔吐物を静かに覆う
ペーパータオルや新聞紙で嘔吐物を覆い、飛び散り防止。
こすらず、押さえるようにして吸収させる。
3. 次亜塩素酸ナトリウムで消毒
漂白剤(6%)を水で希釈し、0.1~0.2%溶液を作成。
嘔吐物を覆ったペーパータオルや新聞紙とその周囲30cm範囲にたっぷりと散布し、10分以上放置。
→ 乾かさないよう注意(キッチンペーパーを上から重ねると良い)。
4. 静かに拭き取り・廃棄
拭き取ったペーパーや手袋は密閉袋に入れ、廃棄。
作業後は再度、周囲を次亜塩素酸で拭き上げる。
5. 手洗いの徹底
アルコールでは不十分。石けん+流水で20秒以上洗う。
【図解:嘔吐物処理の流れ】

【作業の ポイント】
消毒液は使う直前に作る(時間が経つと効果低下)。
拭き取り時に“擦る”とウイルスが飛散するため厳禁。
嘔吐した床やトイレ周囲の清掃は、汚染の範囲を広げないため外側から内側へが原則。
【現場での実践ヒント】
床清掃には使い捨てペーパーやペットシーツを活用。
嘔吐物がカーペットや衣類に付着した場合は、漂白剤浸け置き or 熱湯85℃で1分以上処理。
病棟や介護施設では、処理担当を1人に限定し、他のスタッフが周囲隔離を行うと効果的。
6. 初期対応と周囲への配慮
発症初期は嘔吐・下痢で脱水を起こしやすく、特に高齢者では重症化のリスクがあります。
以下のことを徹底しましょう
- 経口補水液での水分補給(冷たくないものを、ちょっとずつ飲む)
- 嘔吐が続く場合は医療機関での点滴治療
- トイレの水洗ノブ、ドアノブはこまめに拭き掃除
- 症状がおちついた後も2日間は可能な限り調理・配膳を避ける
7. 医療従事者に求められる意識
ノロウイルスは、1人の油断が集団感染につながるウイルスです。医療従事者は、患者だけでなく自らの行動にも注意を払う必要があります。
自らが感染しないよう務めることも医療従事者に求められます。
職場での感染対策はもちろんのこと、プライベートにおいても感染から身を守る意識を持ちましょう。
8. まとめ
- ノロウイルスは冬に流行し感染力が強い胃腸炎ウイルス。
- 感染源は「会食」「トイレ」「調理環境」に潜む。
- アルコールでは不十分。次亜塩素酸ナトリウムによる消毒が有効。
- 石鹼と流水での手洗いで感染予防。
- 家庭や職場での嘔吐物処理・清掃の手順が感染拡大を左右する。
臨床の現場からも、「ほんの少しの油断が大きな集団感染につながる」ことを私たちは何度も経験しています。
この冬も、一人ひとりが正しい知識と行動で感染を防ぎましょう。
参考文献・出典

消化器病専門医・消化器内視鏡専門医
肝臓専門医・総合内科専門医
本城信吾 院長
南北線南平岸駅から徒歩6分、リードタウン平岸ベースにある消化器内科
ほんじょう内科
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